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名古屋工業大学 物理工学専攻 / 物理工学科 (高度工学教育課程・創造工学教育課程)エネルギー材料設計研究室

熱電材料ってなんだろう?

目次

  1. はじめに
  2. エネルギー変換と熱電材料
  3. どうして電気で冷やせるの? ―電子冷却―
  4. 熱からいきなり電気をつくる ―熱電発電―
  5. おわりに

1. はじめに

世のなかでは,たくさんの製品が私たちの生活をより快適にしていくために開発され,消費されています。 その一方で,大量消費の結果として,エネルギーの枯渇や廃棄物の処理,環境保全などの問題が深刻になってきました。 私たちは,現代の生活水準をできるだけ下げることなく,これらの問題を解決していかなければなりません。 熱電材料は,このような社会背景のなかで,いま,注目を集めています。

2. エネルギー変換と熱電材料

ある種のエネルギーを別の様態のエネルギーに変えることを,エネルギー変換といいます。 たとえば,発電もエネルギー変換です。 火力発電では,石油(化学エネルギー)を燃やした熱で蒸気(水分子の運動エネルギー)をつくり, 蒸気の圧力でタービンを回し(剛体の運動エネルギー),これと連動した発電機を回すことで電気エネルギーに変換します。

エネルギー変換には何らかのしくみが必要ですが,そのしくみは発電機のような機械ばかりとは限りません。 ある種の物質にはエネルギーを変換する機能があります。 物質のなかでも工業的に有用なものを材料と呼びますが,エネルギー変換の機能をもつ材料をエネルギー変換材料といいます。 光から電気をつくる太陽電池はその1例です。 材料によるエネルギー変換は,機械部分がないため軽量化がしやすく,また途中で運動エネルギーを経ることなく直接変換するため, 変換損失の低減に有効とされています。

熱と電気のエネルギー変換材料をとくに熱電材料(ねつでんざいりょう)といいます。 熱電材料に温度差を与えると,高温部と低温部の間に電位差(電圧)が生じます。 熱電材料は,直接,熱から電気にエネルギーを変換するのです。 また,熱電材料は逆変換も可能です。つまり熱電材料に電位差を与えると,温度差が生じます。

右の写真※Aは,熱電材料を利用した熱電モジュールです。 白くて大きい板状のものはセラミックス板で,そのセラミックス板に挟まれた隙間に,小さな熱電材料がたくさん並んでいます。

熱電モジュールをサンドウィッチにたとえると,パンの部分がセラミックス板で,具(ハムやツナ)の部分が熱電材料です。

右のイラスト※Bは,熱電モジュールの透視図です。 熱電モジュールには2種類の熱電材料が使われています。 イラストでは分かりやすいように水色とピンクで色分けしてありますが,右上の写真のように,実際には見た目の違いはほとんどありません。 熱電モジュールでは,この2種類の熱電材料が交互に直列回路で繋がれています。

ところで,熱電材料はどうして温度差を生じたり,発電したりできるのでしょうか? それでは,さっそく熱電材料のしくみについて探っていきましょう。

※A
※B

3. どうして電気で冷やせるの? ―電子冷却―

物質は,電気を流すと多かれ少なかれ発熱します。電気コンロなどの電熱線はこの性質を積極的に利用したものです。
また,点灯中の電球の熱さは,多くの人が知っていることでしょう。

さて,右の図のように熱電モジュールに電池をつなぎ,両面のセラミックス板を指でつまんでみます。すると,どうでしょう? 片側のセラミックス板はジワーっと熱くなりますが,反対側はひんやり冷たくなるのです。

電気を流すだけで冷たくなるなんて,めったに聞く話ではありません。冷蔵庫? あれは,液体が気体になるときに熱を奪う性質を利用しているだけです。 注射のとき,消毒のためにアルコールで皮膚を拭きますが,そのときスーっと冷たく感じるのと同じことです。 冷蔵庫では,電気を使って気体を液体に戻す装置を動かしているのです。

熱電モジュールはどうして冷たくなるのでしょうか? その答えはモジュールを構成する熱電材料にあります。 写真※Aでは熱電材料は金属のように見えますが,半導体や半金属のなかまです。 上記で見た熱電モジュールの構造※Bは一見複雑でしたが, その基本構造は右の図のようにわりとシンプルで,n型とp型の2種類の熱電材料をそれぞれ1つずつつないだだけです。 ここで,n型とは電流の担い手(電気の運び役)が電子であることを意味し, p型とは電流の担い手が正孔(正の電荷をもち,電子のようにふるまう)であることを意味します。 なお,写真のモジュール※Aでは, n型として半金属の Bi2Te3,p型として半金属の Bi1.5Sb0.5Te3が使われています。 このモジュールに電池をつなぐと,n型の熱電材料のなかでは電子が電流とは逆向きに移動し,p型の熱電材料のなかでは正孔が電流と同じ向きに移動します。

その様子をn型熱電材料に着目してもっと詳しく見てみましょう。 右の図は熱電材料内の電子のエネルギーを表しています。 物質内では,電子はエネルギーの低い方(図では下の方)から順に入っていきます。 また,物質には,電子が存在できるエネルギーの範囲―許容帯―と存在できない範囲―禁止帯―があります。 これは,単独の原子のなかで電子がK殻,L殻,M殻,...の順に入っていくことや,殻と殻の間には電子が存在できないことと同じです。

これに電気を流すとき,すべての電子が動くのではなく,隙間のある許容帯にいる電子だけが動きます。 ぎゅうぎゅう詰めの満員電車の車内では文字通り身動きがとれませんが,少しでも隙間があれば人をかき分けながら混雑した車内を移動することができます。 物質の内部もそんな状況に似ています。 ここで,左側の金属電極の電子が熱電材料に移るときのことを考えます。 電極の電子は,熱電材料の下側の許容帯が満員のため,上側の許容帯に進もうとします。 しかし,上側に進むにはエネルギーが足りません。 そこで,左側の電極の電子は,周囲の熱からエネルギーをもらい,熱電材料のなかに進むのです。 逆に,熱電材料から右側の電極に電子が抜けるとき,電子は余分なエネルギーを熱として周囲に出します。 このため,熱電材料に電気を流すと,一方で熱を奪い(冷たくなる),もう一方で熱を放出する(熱くなる)のです。 p型熱電材料では,正孔が移動するときに,これと同様の現象が起こります。

電流により物質の両端に温度差が生じる現象は,フランスの物理学者Peltierによって1834年に発見されたので,ペルティエ効果といいます(最近は「ペルチェ」と書くことも増えました)。 この現象を応用し,実用化した製品として,アウトドア用の冷温庫があります。 冷蔵庫ではなく冷温庫と呼ぶのは,従来の冷蔵庫にはない特徴として,電流の向きを逆にするだけで保温庫にもなるからです。 つまり,冷温庫が1台あれば,夏はジュースを冷やし,冬はココアを温めることができるのです。 また,従来の冷蔵庫のような複雑な機構が無いので無振動かつ無騒音であり,さらに,フロンを一切使用しないため地球環境にも優しいという特徴があります。

4. 熱からいきなり電気をつくる ―熱電発電―

2ページ目のエネルギー変換と熱電材料でも少々触れましたが,熱を電気エネルギーに変換するとき, 火力発電のような従来の方法では,熱を一旦運動エネルギーに変換し,それから電気エネルギーに変換します。 しかし,熱電材料を使えば,いきなり熱から電気エネルギーに変換することができるのです。

例えば,右の図のように熱電モジュールに電圧計をつなぎ,机の上に置いた熱電モジュールの上面を指や手のひらで暖めてみます。 すると,電圧計の針が動くのが分かります。指で軽く暖めると針は少し動き,手のひらでしっかり暖めると針は大きく動きます。 手の代わりに熱湯を入れた湯飲みをモジュールの上に置くと電圧計の針はさらに大きく動きます。 逆に,氷水を入れたコップを置いたらどうなるでしょう? 電圧計の針は,これまでとは逆向きに動くのです。また,モジュールの表裏を逆にして熱したときも,電圧計の針は逆に動きます。 それでは,熱電モジュールの両面を暖めたらどうでしょう? 答えは,この辺にマウスをかざすと現れます。

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つまり,熱電モジュールは,上面と下面の温度差に応じて電圧を発生するのです。 また,熱の流れる向きによって,発生する電圧の符号が変化するのです。

この原理を理解するために,やはりn型熱電材料に着目してみます。右の図は電子のエネルギーの概念図です。 ただし,上記の図とは違って,この図の左側は外部から加熱され,右側よりも高温になっています。 電子は周囲から熱のエネルギーをもらうため,高温部では大きなエネルギーをもつ電子の割合が高くなります。 十分に大きなエネルギーをもった電子は,熱電材料の高エネルギー側の許容帯に入ることができます。 この結果,熱電材料の高エネルギー側の許容帯では,高温側(左)の方が電子の濃度が高くなります。

ところが,このように電子の濃度に片寄りがあると,濃度が均一になるように,しぜんと高濃度側から低濃度側へ電子の移動が起こります。 これは,コックで区切られた容器に高圧の空気(空気分子が高濃度)と低圧の空気(低濃度)を入れ, コックを開いたときに高圧側から低圧側へ空気が流れるのと同様の現象です。 この電子の移動の結果,高温側(左)が正に,低温側(右)が負に帯電し,電圧が生じます。 つまり,熱電材料は電池の役目を果たすのです。 これが熱電発電の原理です。ここで重要なことは,熱電材料をただ加熱するのではなく,両端の温度差を維持することです。 両端の温度差がなくなると,発電はとまります。

温度差によって電圧が生じる現象は,1821年にドイツの物理学者Seebeckにより発見されたので,ゼーベック効果といいます。 この現象を応用して市販された製品の例として,電池不要の腕時計があります。 熱電発電の腕時計は,体温と外気の温度差で発電します。腕に着けてさえいれば,暗闇でも発電できるのがこの腕時計の特徴です。

熱電材料により,今まで見過ごしていた熱(廃熱)が,新たなエネルギー源となるのです。

5. おわりに

熱電材料は,オゾン層破壊,地球温暖化,エネルギー枯渇などの21世紀の諸問題を解決していくうえで,とても魅力のある材料です。 しかし,現実には,私たちの身の回りではまだあまり使われていません。

なぜでしょうか?

それは,価格が高いうえ,まだまだ変換効率が低いからです。 また,BiやTeのような重金属を多用することは,産廃処分などの環境問題の観点から望ましくありません。 これらの問題を克服し,熱電材料を社会に広めていくためには,無害で高性能の熱電材料を開発する必要があります。 この研究室では,現在,Fe-V-Al系の熱電材料について研究し,その実用化を目指しています。 下の写真は,Fe-V-Al系熱電材料を使用した熱電モジュールの試作品です。 高効率化を目指して,いまなお,改良が進められています。

最後までお読み頂き,どうもありがとうございました。
ご意見,ご質問等がございましたら,研究室スタッフまでお寄せ下さい。

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